直接脳に働きかける、
香りの不思議
生きるために必要な嗅覚の役割
まず人にとっての香りの大切さからお話しましょう。例えば食べものの状態を確かめるときに、香りを嗅ぐことはありませんか。これは口に入れても身体に影響がないかどうかを確認する、人間の本能の一つです。嗅覚は、生死を司る大切な感覚といえます。
香りは見えないけれど
自然と働きかける
同じ香りでも、タイミングや人によって、感じ方は変わります。空腹のときはできたての料理の良い香りに反応してより空腹を感じます。
反対に満腹時であれば、あまり食欲は刺激されません。香りは見えないものですが、気持ちや身体に大きく作用するといえます。
また、経験した香りは、その時の気持ちと一緒に思い出されます。嗅覚の経験値が多いほど、危険や安全など、情報をいち早く判断できる力にもなります。それが人とのコミュニケーション力にもつながると考えています。
脳に直接信号を送る嗅覚の仕組み
ここで香りと脳の関係を見てみましょう。鼻から取り込んだ香りは嗅上皮(きゅうじょうひ)から、直接脳の大脳辺縁系を経て、自律神経やホルモンのバランスをつかさどる視床下部へと運ばれます。すると香りが、自立神経系やホルモン系、免疫系に作用し、心身共にリラックスすることができるのです。
良質な精油も
良い土壌から
植物が生き抜くために
身近な香りのアイテムとして私たちがよく知っているのは精油(エッセンシャルオイル)でしょう。植物は精油を茎の部分や葉っぱの裏側に貯めています。受粉したいときには良い香りの精油を出して虫を呼び寄せ、反対に病害虫などが来ると、それらが嫌がる香りの精油を出して遠ざけます。
さらに病気の原因となる細菌や真菌、ウイルスを察知して、それらを殺したり増殖を抑制したりする精油を出すこともできます。そして病害虫に食べられたりすると、特別な香りを大気に放出して周りの植物に危険を知らせます。植物の香りには、環境に合わせたたくさんの意味が込められていて、植物と地球環境を守るためのものだともいえます。
また、例えばラベンダーは標高によって成分が違います。気候や、そこにいる生物、菌が異なるからです。つまり精油にはその土壌や地球環境の状態が反映されるのです。
地球環境と植物の良い関係
植物は地球環境を守る役割も果たしています。植物は根を張り土や岩と一体化することで土砂災害を防ぎます。地中深く根を伸ばすために大切なのが、水などをよく通すふかふかの土壌です。この豊かな土壌を作ってくれるのが、菌などの微生物なのです。
豊かな土壌で生物と共存できている植物からは、良質な精油が作られます。良質な精油には植物が元気であるというメッセージが込められています。精油に癒やされるとき、私たちの暮らしが地球環境とつながっていて、地球からの贈り物であることを思い出してみてください。
香りを取り入れ
豊かな暮らしに
手軽な精油の取り入れ方
精油を使うなら、天然の植物から作られた良質なものを選びましょう。また、精油は薬効が高く、使う人の体調、濃度によっても効果や適量が異なります。初めて精油を使うときには、お部屋などの空間で使うと手軽です。
お風呂では、洗い場に1滴ほど垂らして、シャワーでお湯をかけると浴室全体が良い香りに包まれます。
寝室では就寝前にラベンダーやカモミール、ウッディー系の香りを嗅ぐと気持ちを落ち着かせてくれます。
台所掃除には、オレンジ系がおすすめです。油汚れを落とす効果があります。またクローブをティッシュに垂らすなどして使うと、防虫効果を得られます。
自然の香りを感じ取る
暮らしの楽しみ
精油だけでなく、例えば日常の野菜の香りなどもアロマです。日本人は昔から薬味を上手に食事に取り入れたり、防腐のためにお弁当を竹の葉で包んだり、植物の力を生かした使い方をしてきました。
私たちは本来自然の香りから直感で良いもの、悪いものを感じ取る力を持っています。嗅覚の経験値は、私たちの心を豊かにし、思考を高める手助けになると思います。
たくさんの香りを嗅覚で感じ、自然の香りを感じ取りながら、心豊かですこやかな暮らしを楽しみましょう。