和の心に魅せられて江戸の暮らしに学ぶ美と健康

和の心に魅せられて江戸の暮らしに学ぶ美と健康

特集1和の心に魅せられて

江戸の暮らしに学ぶ
美と健康

江戸の版元である蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)を題材にした時代小説やビジネス本を世に送り出し、あらゆる方面から引っ張りだこの作家・車浮代さん。料理や芸術、大衆文化など江戸時代全般への造詣(ぞうけい)が深いことで知られます。

今回は、東京銀座のイービーエムの店舗「ブルームオーラ・ザ ジャーニー」にお迎えし、肌と身体、そして心まで整える癒やしの和空間で、江戸の美と健康の知恵を伺いました。

(左)聞き手 清賀きよが 邦子くにこ

株式会社イービーエム 取締役
美容家/スキンケアアドバイザー
/EBM菌活アドバイザー

(中)ゲスト くるま 浮代うきよさま

江戸料理文化研究所代表

(右)聞き手 もり 秀子ひでこ

株式会社イービーエム
商品開発担当

高い技術を目の当たりにし
江戸の文化の虜に

清賀本日はお忙しいところありがとうございます。

車さまここは銀座とは思えない落ち着いた和の空間ですね。

お着物姿の車さまがいらっしゃると雰囲気がより素敵になります。

清賀江戸文化にお詳しい車さまですが、興味を持たれたきっかけは何だったのですか。

車さま浮世絵との出会いでした。大阪で開かれていた大規模な浮世絵の展覧会で、喜多川歌麿の有名な美人画制作の実演に立ちあったことがあります。摺師(すりし)の方が流暢な江戸弁で解説をしながら、超絶技巧を見せてくださいました。浮世絵では髪の生え際は1ミリの幅に0.3ミリの線を彫り残します。そんな高い技術にすっかり魅了されたのです。もう一つは蔦屋重三郎を知ったことです。企画を考え、絵師・彫師・摺師を決めて自社で本を販売するシステムは現代とほぼ同じで、出版のルートをすでに確立していたことに驚きました。

料理研究家でもある車浮代さんは、珍しい江戸風のキッチンスタジオ「うきよの台所」を開設。

江戸の暮らしは菌とともに

現代の食事の原点は
江戸時代にあった

清賀江戸時代のどういった点に魅かれているのでしょうか。

車さま人がその日その日を大切に生きていたことと、人を驚かすことにエネルギーを注いでいたことです。火事と隣り合わせの江戸の町で、庶民は浮世絵や根付など、〝手に持って逃げられるもの〞に重きを置いていました。職人は腕を磨いて、より高い技術で小さな世界を完成させ、周囲をあっと言わせることに喜びを感じていたようです。

車さまは江戸の料理にも造詣(ぞうけい)が深くていらっしゃいます。どんな特色がありますか。

車さま濃口醤油が誕生して、和食の基礎が築かれたのが江戸時代です。日本食の代表として知られる天ぷらや鰻の蒲焼き、握り寿司などはもともと江戸の郷土料理でした。江戸の料理が現代の日本の食卓の基盤となっています。それが今や世界中の人々を魅了しています。

発酵調味料に含まれる
菌の力を活用していた

清賀江戸の料理には食品に含まれる菌は欠かせなかったそうですね。

車さま日本では刺身や寿司など食材を生のままいただくことが多いですよね。江戸時代には冷蔵庫がないので、腐敗しやすかったことでしょう。しかし江戸の食にはお酢や味噌、醤油、みりんといった発酵調味料がありました。そうした調味料を活用しながらさまざまな料理を発展させてきたようです。もちろん当時の人は、発酵調味料に菌が含まれることは意識していなかったはずです。

それでも発酵調味料を使えば、おいしく安全に食べられることを自然と心得ていたんですね。

車さま〝体内の毒を消す〞といった感覚も、江戸の人たちは持ち合わせていました。刺身と一緒に大根おろしなどの薬味を食べていたのもその一つです。江戸前期に出された「本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)」という料理本があります。それには、すでに大根は胃腸を整えることなど、食材がどのように身体に作用するかについて書かれています。

すでに成立していた
循環型の自然な暮らし

清賀イービーエムではプラネタリーヘルスの概念のもと、さまざまな取り組みを行っています。循環がキーワードですが、江戸時代は循環型社会だったのでしょうか。

車さまそうですね。たとえば人糞は畑などの肥料になるのは当たり前で高値で取引されていました。

土壌にとって良いものだと分かっていたんですね。

清賀現代の生活様式は、土壌だけでなく川や海のミネラルや菌バランスの変化にもつながっていると言われています。私たちの食生活も、巡りめぐって土や水の質につながっているので、菌の力を取り入れた江戸時代の食の知恵を参考にしたいですね。

美と健康は
あたためることから

成熟した江戸社会の
こだわりの美学とは

清賀ところで江戸時代はどんな美容方法を好んでいたのですか。

車さま化粧水はすでにあり、江戸後期の式亭三馬(しきていさんば)という人が江戸の水という化粧水を売り出して、大ヒットしたようです。ほかには馬の油や椿の油などを使って、あかぎれのケアなどをしていたみたいです。米糠を入れたぬか袋で肌を磨く美容法もありましたが「磨きすぎて、肌が乾燥してしまった」といった話も残っています。

美への欲求は今と変わらないかもしれませんね。

車さま江戸の男性にも美学があって、頭髪を剃り上げた部分を月代(さかやき)といいますが、そこはツルツルであるというのが当然のことでした。2、3日に一度は床屋に行っていたようですよ。

江戸時代から存在した
「あたためる」文化

江戸の人たちはきれいな肌を重要視していたのでしょうか。

車さまもちろん肌がきれいなことは大事で、特に色白がもてはやされました。また江戸っ子は薄化粧が良いとされていました。マイナスの美学だったのです。

現代の美容事情も、そうした方向に流行が移りつつありますね。

清賀江戸時代のお風呂事情はどうだったのですか。

車さま元禄時代までは蒸し風呂だったようです。そのあとだんだんと湯船が発展してきました。蒸し風呂はもっと昔に、お寺で始まったそうですが、江戸時代の蒸し風呂では、肌をふやけさせたあとに、さらに身体の垢をこすって落とすといったことをしていたようです。

清賀肌をふやけさせるのはその頃にもあったのですね。肌の代謝を高めてから、本来の美しさを引き立たせるということが当時から行われていたと伺って、びっくりしています。

「あたためること」で続く美と健康

本当ですね。私たちイービーエムが長年のお手入れで力を入れている、「あたためること」の美容ともつながっていますね。

車さま確かにそうですね。

私たちはさまざまな技術がつまった独自の蒸しタオル「ゆらぎたおる」を使ってあたためることを大切にしています。美意識の高い江戸の人も同じように身体をあたためていたと知って、私もうれしい気持ちになりました。

清賀「あたためること」は腸内境を整えることにもつながります。先ほどの江戸の食にまつわる菌の話といい、いろいろなところで共通点を感じますね。

今こそ生かしたい江戸の知恵

江戸の人たちの知恵を
未来へ伝えていきたい

清賀江戸の知恵を現代の私たちはどう生かしたらいいでしょうか。

車さまやはり和食中心の食事をもう一度見直していただきたいですね。私が推奨しているものに、米のとぎ汁漬けがあります。とぎ汁に自然塩を溶かし、切った野菜を漬けておくだけというものです。

ぬか漬けより簡単にできそうですね。

車さまキャベツや玉ねぎ、ニンジン、ショウガがおすすめです。漬けた野菜は水分を切って炒め物にも使えます。乳酸菌で発酵していますから、栄養価はアップしているはずです。

車さまはたくさんの菌が含まれる江戸料理と出会ってから、何か変わったことがありますか。

車さまお味噌汁や米のとぎ汁漬けを食べるようになって身体の調子が断然良くなりました。

清賀イービーエムでは、これまでも皆さまの美と健康のために菌の力を生かす取り組みを進めてきました。本日教えていただいたことを参考に、今後も菌の大切さをお伝えしていきたいと思います。

車さま楽しみにしています。

清賀・森本日は貴重なお話をありがとうございました。

くるま 浮代うきよ さま

江戸料理文化研究所代表/時代小説家。大阪府出身。企業内グラフィックデザイナーを経て、作家の柘いつか氏に師事。江戸料理の研究、再現(1,200種類以上)のほか、浮世絵をはじめとする江戸文化に造詣が深く、講演やテレビ出演など多岐にわたり活躍する江戸の食・文化のスペシャリスト。江戸料理に関する書籍のほか、‘‘江戸のメディア王’’といわれる蔦屋重三郎(蔦重)が登場する「蔦重の教え」「蔦重の衿持」などの時代小説、江戸に関する研究書・エッセイを数多く執筆。映画監督・新藤兼人氏に師事し、シナリオを学んだ経験もあり、「自分の作品が映画化されるのが夢」と語る。

「発酵食品でつくるシンプル養生レシピ」(東京書籍)など料理に関する著書も多数。すぐに使える知恵が盛りだくさん。

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